Top / Iwee! / BBS / Novel / Game materials


Ads by Google

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

欠け月のウィジャ 第一幕-01a

 細かなことは気になりだすと、取り留めもなくなる。

 連日続く熱帯夜のせいで目が早く覚めていた。別段やることもないので、何とはなしに庭先を眺めていたところ、隅のほうに妙な突起が地中から飛び出しているのを見つけた。
 大きさは親指の先ほどであるが、陶器のような滑らかな材質でできていてとても硬い。
 興味を持ち、いろいろと弄ってみたのだが、深くから突き出ているのか少々の力ではびくともしないということが分かるのみで、父親に尋ねてもただ「知らない」とだけ言われた。
 ならば学校の先生に聞いてやろう、と思い立ったのが朝食を食べている最中のこと。食べ終わるなり、すぐに袴羽織へと着替えて教科書を風呂敷に包むと、カンカン帽を手に取り家を飛び出してきた。  
 
 この少年、小林金之助は小さなことを気にする少年だった。
 デモクラシイだの国際連盟だの不景気だのと、時代は大きな波に翻弄されつつ、騒がしい有様だった。しかし、それらの大事を心配する以前に、金之助には微細な問題が多かった。己の身長が平均的な男児に比べて低いことも、勉学や運動も人並みだったことも、顔が取り分けて言うほどに良いというわけでないことも。金之助は様々なことを悩み事として、その内に設けていた。
 中でも一番の厄介事は、彼の名前。
 同窓の者に揶揄されるのだ。特に一文字目の「金」を捩られることが多く、この間の遠足の時など集合場所に少し遅れただけで、金之助が神隠しにあった、と騒がれ、しばらく「金隠し」と呼ばれる憂き目にあった。
 しかしそんな学校も、金之助は嫌いではない。嫌いなのは馬鹿にされる自分の名と、そんな名前をつけた親だった。そのような成り行きで、金之助は若干十二歳にして、将来自分に子ができたらば「金」の文字だけは継がせまい、と心に誓っている。このことについては金之助自身、実に馬鹿馬鹿しいことだと自覚していた。
 要するに瑣末なことなのだ、それは承知している。承知していても、嫌なものは嫌なのだ。そうして細かな厄介事は一つ一つ積み重なり、いずれは一塊の大きなもやとなって、いつまでも金之助の中に鈍い色のまま居座るのだった。
 そんな日々の暗鬱な気分をどうにかして払拭してやろうと考えあぐねていたところ、発見したのが庭先の小突起だ。あの小突起の正体を掴めば、昨日までの自分をどこかに押しやって清新な朝をもたらしてくれるのでは。漠然と、その正体に期待していたのだった。

 そんなふうに浮かれていたのが間違いだったのかもしれない。普段より家を幾分も早く出た金之助は、更なる発見を求めて普段と違う通学路を通って学校へ行こうとした。最初は路地に入っても、すぐに見知った大通りに出るので、気にせずどんどんと小道に入っていった。
 そんなことを十数回繰り返した結果、全く知らない路地に出た。
 さすがに金之助もこれには驚いた。ここ昨今、東京が急速な様変わりをしているとは言っても、まさか自分の家の近所で迷子になるとは思っていなかったからだ。それに朝であることを差し引いても、あまりに人通りが乏しい。本来の道から相当に離れてしまったのかもしれない。とっとと道を戻って学校へ向かわないと、いかに朝早く出たとはいえ、また学友から「金隠し」と呼ばれてしまう可能性もある。
 さしあたって大通りに出ようとしても、なかなか思うような場所に出ることはできない。そうこうしているうちに、どこかで朝飯を求める鳩がポツリと鳴いた。いよいよこれは「金隠し」も免れないかもしれない。がっくりと肩を落とした金之助が溜め息をつこうと顔を上げた、その瞬間。
 金之助は目の縁で動くものを捉えた。
 顔を向けて見やると、世辞にも綺麗とは言えない、紅に彩られて静かに佇む鳥居があった。
 動くものは、その奥に続く緑に覆われた小道へ入っていったように見受けられたなあと、狸に化かされたようにぼうっとしていた金之助であったが、力をこめて鼻から大きく息を抜くと、これ幸いとして鳥居の中へと歩を進めた。
 見知った土地のすぐ傍で道を尋ねるのは、知人と出くわすかもしれないという思いもあり、少々恥ずかしい気持ちもある。だが「金隠し」に比べればまだましというものだ。それに朝早く神社にお参りをする人に、悪い人などいない…はずだ。
 鳥居は、屈強なビルヂングが屹立する間隙に挟まれる形で小ぢんまりと立っていて、暗い路地にありながら独特な存在感をかもしていた。一見すると趣があると感じることもできる。
 楽観していた金之助だったが、鳥居をくぐるとまず驚いたのがその暗さだった。朝だというのに、この路地だけは朧の月明かりよりも心もとない。道に覆いかぶさる木々の葉をそよそよと涼しい風が駆け抜けていくが、金之助としてはそれすらも気味が悪く、さっくと誰かに道を聞いて御暇したかった。
 長く続いた路地をようやっと抜けたとき、金之助はあっと声を上げた。少し開けた場所へ行き着いたのだが、そこには思っていたような社が無く、代わりにやはり綺麗とは言えない一軒の平屋があった。四方をビルヂングに囲まれ、さながら浦島太郎に出てくる虐げられている亀のような様相を呈していた。見れば「葛葉骨董店」と看板を掲げている。 
 鳥居があって社が無いなんてことがあるのかしらと、金之助は訝しげた。これではまるで藪を突付いて魚が飛び出した、そんな感じだ。目を大きく開き、奥の奥のほうから力を込めて入り口を眺めるが、いまいちはっきりと覗くことができない。とにかく暗い上に、まったくもって音が無いのだ。まさか本当に神隠しにあっているのではないかと、ひやりと首筋に流れるものを感じた。
 とにかく、今は見たものを信じるほかはない。辺りに人影が無いので、先に見かけたものがいるとすれば、この寂れた骨董店の中だ。道を聞かねば「金隠し」は免れぬ。金之助は店の引き戸を開き、中に入ることに決めた。


     目次  >>次へ

コメント

なんか近代文学な匂いがする文章。
りやさんの文章って初めてまともに読んだけど結構好きかも。

ありがとうございます〜。
文章自体はなるべく古臭い形にしようかと苦心しています。
そうできているか、否かは知りませんがっっ!(ぉ

この序文の地の文の多さは、自分で見ても読みにくかったri...あせdrftyふじこ

いおにゃんに「世界観の表現が少ないね」と言われたので、
”袴羽織へと着替えて〜〜”
”デモクラシイだの国際連盟だの〜〜” の部分を加筆。

…これで、金之助が短パン茶髪ボーイ疑惑は消えました。(何

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://dawns.blog80.fc2.com/tb.php/96-013fc05a

 | HOME | 

月別アーカイブ

プロフィール

Author: りや (or ろくろ )
ツール: PhotoShop 6.0
誕生日: 2月2日
 好 : 耳的ななにか
 嫌 : 虫
 
mail :↓の●を@にしてください
    rhea_dawn●hotmail.com

カテゴリー

最近の記事

管理人サイト リンク

最近のコメント

RSSフィード

検索 / Ranking

駄文同盟.com / 萌ex
絵ブログ検索エンジンNEWVEL
ChaosParadise


FC2 Blog Ranking 人気blogランキングへ
ブログランキング・にほんブログ村へ ブログ大辞典.com
にほんブログ村 イラストブログへ

同人関連

サークル参加しているイベント


その他、顔を出しているサークル

バナー

200×40
88×31

その他

無料レンタルカウンタ【PeTiT COUNTeR】

Powered By FC2ブログ

Powered By FC2ブログ
ブログやるならFC2ブログ

FC2Ad

FC2ブログ